労務最新情報コラム

最新の法律系雑誌・裁判例等より、実務上、興味深い部分をかいつまんで御紹介してきます。

ジュリスト1500号(平成28年12月号)座談会「これからの労働実務」

記事の概要

学者(岩村正彦)、労働者側弁護士(徳住堅治)、使用者側弁護士(木下潮音)に最新の判例状況等をふまえた労働実務の最先端に関する興味深い座談会である。頁数は20頁にも及ぶ。

【今改めて考える裁判例】

  • 労基法・労組法上の労働者
  • 労組法・労契法上の使用者
  • 整理解雇
  • 時間外労働

【最近注目の立法・裁判例】

  • 正規従業員・非正規従業員の金等大愚・均衡処遇(労契法20条)
  • 業規則が定める労働条件の不利益変更の規律
  • マタハラ

について議論

興味深い部分

以下、当職にて気になった部分を箇条書きで抜粋しておく。今後の実務を考える上で、非常に勉強になる。

【労基法・労組法上の労働者、労組法・労契法上の使用者】

  • 労基法上の労働者と労契法上の労働者概念は異なるのではないか。労基法は刑罰を伴う保護法規であり、厳格に判断されるべきであるが、労契法は当事者の意思に基づく二に契約であり、緩やかに解してよいのではないか(NHK地域スタッフ事件)
  • 労組法上の労働者の方が労基法上の労働者より広いと考えられおり、NHK地域酢田亜不、ソクハイメッセンジャー、新国立劇場の合唱団員について、労基法上の労働者性が労組法ことはことなり否定されていたが、メルクマールは、事業組織への組込み、諾否の自由にある
  • 形式的には独立した事業者であるコンビニの加盟店、クラウドを使って自宅で働く場合が、労基法上、労組法上の労働者にあたるか否かが新しい論点
  • 親子関係型で親会社に使用者性を認めるのには、慎重な判断が必要(参考パナソニックプラズマディスプレイ事件)

【残業代】

  • 固定残業代については、青少年雇用促進法の指針(平成27年厚生労働省告示406号)の中で、固定残業時間及び金額、固定残業代を除外した基本給の額、固定残業時間を超える場合は割増賃金を追加で支払うことの明示を求めていることが、実務的に影響をあたえるようになる

【正規従業員・非正規従業員の均等処遇・均衡処遇(労働契約法20条等)】

  • 長澤運輸事件(定年後再雇用が問題)、ニヤクコーポレーション事件(パート労働法)、ハマキョウレックス事件(正規と非正規)は、いずれもトラックドライバーに関する判決であり、雇用形態にかかわらず、業務内容・成果などが全く同一であるので、この判決の結論を一般化できないのではないか。
  • 長澤運輸事件第1審判決のように、賃金全体で比較するのは、労契法20条の関係ではおかしい。ハマキョウレックス高裁事件判決のように、個々の手当の合意理性など、個々の項目で考えないといけないのではないか。また、雇用継続給付や厚生年金の調整手当等も考慮しなければならない。

【就業規則が定める労働条件の不利益変更の規律】

  • 従業員の個別の同意があれば、就業規則の不利益変更が許されるわけではない。「自由な意思に基づいてなされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か」が問題とされ、その前提としての使用者側の従業員に対する不利益な状況を含めたきちんとした説明が必要(山梨県民信用組合事件最高裁判決)。また、退職金の変更など、就業規則を変更したときに、将来どうなるかよく分かっていないときに、判子を貰ったからといって、これが即自由な同意があったとみるには危険である。使用者側弁護士としても、労契法9条で勝てると思わず、10条で勝負できることが必要。