雇用契約とは委任・請負の区別(労働基準法上の保護を与えることが必要な場合)

会社目線の労働コラム

企業の方向けに、必要な最低限の労働法の知識、コンパクトに労働問題解決のノウハウをお伝えします。

雇用契約とは
委任・請負の区別(労働基準法上の保障を与えることが必要な場合)

雇用契約とは

雇用契約とは、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことを内容とする労働者と使用者の間の契約をいいます。

雇用契約の特徴~雇用契約であれば当然適用される労働者保護の制度~

 雇用契約であり、労働基準法上の「労働者」にあたるのであれば、使用者は、以下のような労働者に対する保護を与えねばなりません。

  1. 雇用条件の不利益変更の禁止(使用者の一方的な都合で雇用条件を労働者の不利益に変更させることは原則としてできないこと)
  2. 解雇権濫用法理(使用者の一方的な都合で雇用契約を簡単に終了させることはできないこと)
  3. 有給休暇
  4. 残業代規制
  5. 社会保険(厚生年金、健康保険。但し、一定の就労条件を満たす場合)、労働保険(雇用保険、労働災害保険)への加入義務

したがって、雇用契約であるか否かは実務上重要な意味を持ちます。

労働者性~脱法的委任・請負契約は同意や書面があっても認められない~

上記のような労働者保護のための規制を免れるため、名目上、委任契約は請負契約等の契約が締結されることがあります。

しかしながら、契約の名目にかかわらず、また、仮に受注者自身が雇用契約でないことについて納得していたとしても委任契約書や請負契約書が締結されたとしても、「労働者性」の有無は、あくまで、実質的に判断されます。「労働者」として評価されると、会社が上記保護を与えねば違法となるのです。

雇用契約であり、労働基準法上の「労働者」にあたるのであれば、上記労働者保護の諸制度を適用しなければなりません。

労働者性判断の要素


「労働者性」については、一般的に、

  1. 使用者の指揮監督下の労働といえるか(受注者に裁量がないといえるか)
  2. 報酬が労務の対価として設定されているか否か(報酬が賃金と似ていないか
  3. 事業者性がない(自らの計算と危険負担にて事業経営を行っていない)といえるか

について、判断されることとなります。労働者と判断されやすい要素は以下のとおりです。

【労働者と判断されやすい要素】

  1. 指揮監督下の労働といえるか
  • 受注者に仕事の依頼・業務従事の指示などに対する諾否の自由がない
  • 会社が受注者に業務の具体的内容及び遂行方法に関する指示を行っている
  • 会社が、受注者の業務の進捗状況等を管理し、受注者に逐次報告させること等により把握している
  • 勤務場所・勤務時間を定めている
  • 業務の代替性がある

 2. 報酬が労務の対価として設定されているか

  • 報酬が時間給を基礎として計算されるなど、労働の結果による報酬の格差が少ない
  • 欠勤時に欠勤分の報酬が控除される
  • 残業時に通常の報酬以外の手当が支給される

   3. 事業者性がないといえるか

  • 会社が業務に必要な機械・器具等を所有し、受注者に貸し出している
  • 受注者が独自の商号を使用していない
  • 受注者が業務遂行上の損害に対する責任を負わない
  • 他社の業務に従事するとが禁じられていたり、従事することが困難である。
  • 報酬に固定的部分があったり、業務の配分等により事実上固定給となっている、その額も生計を維持し得る程度のものであるなど、生活保障的要素が強い
  • 労働保険の適用対象としている、退職金制度を適用している、福利厚生制度を適用している
実務上の留意点~個人発注業務の見直し~

とりわけ、個人に発注している業務に関しては、きちんと見てみると実質は雇用契約と判断されかねないものが多く、問題となった場合に予想外の多大なリスクを負うことになります。今一度、気になる契約について見直してみたらいかがでしょうか。