企業の方向けに、必要な最低限の労働法の知識、コンパクトに労働問題解決のノウハウをお伝えします。
労働時間にあるか否かは、実務上大きな意味を持ちます。労働時間になるとすれば、残業代規制が及ぶことになるので、当該時間分の賃金を支払わなくてはならない上、その賃金は法定時間外にあたるのであれば割り増しとなるからです。従業員が残業代が発生しないことについて了解をしていても、労働時間にあたる限りは、残業代が発生するのです。
それでは、どのようなときに労働時間といえるのでしょうか。労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」をいいますが、一般的に、以下のようなことが言われます。
労働時間にあたるのか否か具体的イメージを持って頂くために、問題となりそうな場面をいくつかピックアップしてみます。なお、実際には、いろいろな要素を総合考慮して、労働時間にあたるか否かは決まりますので、具体的局面が労働時間にあたるか否かは、専門家に御相談ください。
【1 休憩時間】
休憩時間は、労働から解放されている必要があり、場所を拘束してはいけません(休憩時間は好きな場所で好きなことができなければなりません)。場所を拘束すると、労働時間と見なされる可能性があります。
【2 手待ち時間・仮眠時間・不活動時間】
基本仕事はなく休んでいてよいけれども、仕事がきたときには対応しなければならず、待機場所も定められているといった場合には、労働から解放されていないため、労働時間にあたります。
【3 準備行為】
朝礼はもちろんのこと、業務に必要な着衣・清掃・準備を始業時刻前までに行わなければならないとされているときは、その着衣、清掃、準備に必要な時間も労働時間にあたります。
【4 始業時刻前の就労】
業務命令がなき限り、労働時間性が認められる可能性は、終業時刻後の就労(残業)より低いといえます。ただし、従業員にいらぬ誤解を与えないために、始業時刻前出勤が業務命令に基づかないことを明らかにし、自主的に始業時刻前出勤を行い現実に業務に従事したとしても、労働時間にはあたらず割増賃金は発生しないということを一般論として明示した方がよいでしょう。
【5 終業時刻後の就労】
許可なき限り残業は認めない扱いとなっていたとしても、会社が明示的に退社するように命じなければ、労働時間性が認められる可能性が高いといえます。
【6 持ち帰り時間】
場所的拘束性・時間的拘束性がないので、原則として労働時間にはあたりませんが、担当業務を一定の期限までに処理しなければ会社から不利益に取り扱われたり、自宅に持ち帰って仕事をしなければ一定の期限に担当業務を処理できない、従業員が自宅に持ち帰って仕事をしていることを会社が認識しているといった場合には、労働時間にあたる可能性が高いといえます。
【7 業務報告・メール】
会社外・自宅・業務時間外であったとしてもその日中に業務報告・メール等を行うことを指示していた場合には、その作成時間は労働時間にあたります。これを避けるには、業務時間外の業務報告・メールを禁じる(業務時間内に間に合わないときは、翌日の業務時間内でよしとする)した方がよいでしょう。
【8 出張時間】
出張時の出張場所への移動時間は原則として労働時間にはあたりません。ただし、直行直帰ではなく、出張の前後に会社への出社・帰社を求めた場合には、全体として労働時間にあたります。
【9 取引先の接待】
業務命令である場合(参加しなければ評価に影響する)には労働時間にあたります。
【10 職場の宴会・社員旅行】
自由参加である場合には労働時間にあたりません。上司が、「仕事の話をするから飲み会に参加しろ」という場合には、労働時間にあたる可能性があります。
【11 教育研修・自宅での課題】
義務づけられている場合に労働時間にあたります。
皆さんが想像されているより、労働時間にあたるか否かは厳しく判定されます。また、何もしないと、タイムカード上の打刻時刻が労働時間だと判断される可能性が高いことは念頭に置く必要があります(だからといって、タイムカードを廃止したり、実労働時間と違うタイムカードの切り方を指示することは、かえって、会社に不利となる可能性がありますので、全くおすすめしません)。
会社が労働時間としたくない部分については、黙認をすることは禁物です。現実に労働(業務)から解放し、それでもこれを無視する労働は業務命令に基づかないことを明示することが必要となります。
たとえば、個々の従業員に「業務をする必要はなく、明日やればよいので、すぐに帰宅するように。これは業務命令です。」などとメール等形に残る形で注意をしたり、「自主的な始業時刻前出勤とこれに伴う就労に賃金は発生しない」「休憩時間は自由に過ごしてください。来客・電話対応をする必要は一切ありません。自主的に対応をしたとしても賃金は発生しません」などと、内部的に一定の通達を出すことなどが考えられます。