会社目線の労働コラム

企業の方向けに、必要な最低限の労働法の知識、コンパクトに労働問題解決のノウハウをお伝えします。

合意退職の手続

退職勧奨と合意退職

「退職勧奨~合意退職のステップとして~」で、解雇にはリスクがあることから、実務上、退職勧奨をして合意退職に導くことが望ましいことを述べました。

あわせて、そのためには、退職勧奨が社会的に相当な手段方法によって行われ強要にならないこと(退職の同意が自由意思にること)、②退職の合意が有効に成立していると証拠上もいえることが必要であるとし、①退職勧奨の方法についてご説明しました。

この頁では、②退職の合意を有効に成立させるためにはどうしたらよいか、についてご説明します。

退職の合意とは

「退職の合意」とは、従業員と会社との間の従業員が退職する旨の合意をいいます。

従業員が退職を申し入れ、会社がこれに応じることもありますし、会社が退職をして欲しいとの申入れをし、従業員がこれに応じることもあり得ます。

従業員が退職をするという点において、従業員と会社の意思表示が合致することに意味があるのです。

退職合意の成立時期と撤回の可否~退職の申し入れは承諾後は撤回できない~

このように、合意退職は相手方が退職の申入れを承諾したらその時点で成立します。したがって、従業員が退職を申し入れたとしても、会社が承諾してしまったら、従業員はこれを撤回することはできません。撤回できるのは、会社が承諾する時点までです。

たとえば、従業員が退職を申し入れ、退職届を提出したとしても、上司がこれを単に「預かっておく」という扱いにして、正式に受理手続がなされていないのであれば、従業員はこれを撤回することができるのです。

退職の合意の方式~理論上は口頭で成立しうるが、書面で行うべき~

合意退職は、退職の意思表示の合致ですから、本来、方法は問わないはずです。したがって、理論上は口頭によるものでも退職合意は成立しえます。

しかしながら、何かの言い合いをしている際に、従業員が「こんな会社辞めてやる」と述べ、上司が「だったら辞めろ」といった、売り言葉に買い言葉的なやりとりだけで合意退職が成立すると見るべきでしょうか。

退職の合意は、会社・従業員間の雇用契約そのものの終了という、雇用契約において最も大きな法的効果を発生させることになります。したがって、退職の申し入れの意思表示自体には、そのような効果を伴うとの十分な自覚とともになされること、それ相応の内実を伴った意思表示であることが必要となります。したがって、売り言葉に買い言葉的なやりとりだけで、合意退職が成立したとみるのは、危険です。裁判所もこの認定には慎重です。一方で、従業員が、退職届を書面で作成した場合には、退職の意思が真にあることを自覚して作成したことが推認されやすくなります。

また、単なる口頭の場合には、結局、言った言わないの争いになってしまいます。「退職した」と言いたい会社側が、合意の成立の事実を立証しなくてはならないところ、結局書面などがなければ、これを立証することは困難です。

したがって、実務上は、①退職の意思が内実を伴ったものであることを確認するために、②また、後の争いを避け証拠の一つとするために、口頭ではなく、書面の形で退職の意思を確認すべきです。

退職の意思を確認する書面~どのような書面をとればよいのか~

それでは、従業員の退職の意思を争われないために、どのような書面をとればよいのでしょうか。

大きく分けると、①会社と従業員の双方名義のある合意書と、②従業員の会社宛の退職をする旨の従業員名義の書面(いわゆる、退職届)の二つがあります。①はそれ自体で会社の承諾の事実も出てきますのでそれだけで十分ですが、②の退職届の場合は、従業員の退職の意思表示自体しか書面には出てこないので、別途、会社が受理(承諾)の手続をする必要があります。

内容としては、最低限、退職日付と退職することを記載すべきです(その意味で、「退職合意書」「退職願」「辞職願」等の標題にこだわる必要はありません)。

また、本人が真に作成したことを確認するために、文面自体はパソコンで作成したとしても、署名欄には本人にサイン(自著)して貰うべきです。押印はある方が望ましいですが、なくとも構いません。

従業員に退職してもらいたいケースでは、従業員に真に退職の意思があり、これを翻意しないうちに、退職届を提出して貰い正式に受理してしまうことが肝要です。たとえば、押印なくともサイン(自著)して貰った退職届を受け取り、すぐにその原本に受理などの記載をし、合意退職が成立したことを明らかにし、その上で、コピーをし、コピーを本人に渡す方法が簡便といえるでしょう。

また、一端、退職合意書を作成したり、退職届を受理したら、その後は方針を変えず、諸々の退職に向けての形式手続の処理に着手すべきです。もし、その後、退職とは反対方向の従業員の継続勤務を前提とする行為(たとえばシフトを組む、退職日以降の業務指示を行う)を会社が行うとしたら、従業員側に、合意退職が成立していない、もしくは、合意退職が成立したとしても双方の合意により撤回された、との主張の余地を残すことになるからです。

実務上のポイント

 

 以上のとおり、合意退職を有効に成立させるためには以下の点に注意して下さい。

  1. 退職勧奨は自体の手段・方法に留意すること
  2. 退職意思の有効性を争われないために、退職意思の確認は必ず書面で行うこと
  3. 退職届の場合には、撤回をされないように、早期に受理手続を行うこと
  4. 退職合意書作成後、退職届受理後は、退職と相反する行為を会社が行わずに、退職に向けた諸手続にすぐに着手すること

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