退職勧奨~合意退職のステップとして~

会社目線の労働コラム

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退職勧奨~合意退職のステップとして~

退職勧奨とは~退職勧奨はしていいのか~

「辞めてもらいたい社員がいるんだけど、解雇難しいんですよ」「退職勧奨しても駄目なんですか?」「えっ、退職勧奨ってしてもいいんですか?」というやりとりがなされることがあります。退職勧奨は労働者保護の観点から許されない、このように誤解している会社関係者がたまにいます。

退職勧奨は、従業員に対して退職を促すための事実上の行為でしかありません。従業員はこれを特段理由を示さずとも拒絶することができ、退職するか否かの決定権は従業員に残されており、退職勧奨自体で何らかの法的な効力が発生するわけではありません。

したがって、使用者による退職勧奨は原則として自由です。

退職勧奨、合意退職の重要性

退職勧奨は、それ自体で直接法的な効力が発生しないとしても、合意退職を導くためのステップの一つです。

そして、合意退職は、相手方の同意が必要とはいえ、解雇との比較において実務上極めて重要な意味を持ちます。

  1. 解雇は、使用者の一方的な行為であるがゆえ、従業員の反発を招きやすく、争われるリスクがあるが、合意退職にはない
  2. 解雇を争うのは原則として制限期間がないため(時効のような概念はない)、会社側はいつまでも争われるかもしれないとのリスクを抱えることになる
  3. 解雇の有効性は微妙な場合も多いところ、仮に解雇が無効となると、復職を認めざるを得なくなるし、復職までの給与(バックぺイ)及び遅延損害金の支払が発生することになる
  4. 仮に解雇が有効であることが後に確認されるとしても、争われること自体で解決までの時間と労力と弁護士費用のコストがかかる
  5. 解雇の場合、1ヶ月前の解雇予告か、即時解雇の場合の1ヶ月分の解雇予告手当の支払が必要になるが、合意退職の場合は必要ないし、合意により退職日時を自由に設定できる

したがって、個人的には、実務上は、解雇をする前に、退職勧奨をして合意退職が成立する余地がないか検討した方がよいと考えています。

退職勧奨の留意点~退職勧奨が争われないために~

このように、実務的には、解雇より退職勧奨により退職の合意を成立させることが望ましいのですが、そのためには、退職勧奨を行うことは使用者の自由とはいえ、退職勧奨が社会的に相当な手段方法によって行われ強要にならないこと(退職の同意が自由意思によること)、②退職の合意が有効に成立していると証拠上もいえることが必要です。

それでは、①退職勧奨が強要にならず、合法であるといえるためには、どのような点に注意たらよいでしょうか(②退職の合意が争われないようにするための実務上の留意点については次回ご説明します)。筆者は以下のような点が重要であると考えています(個人的な見解です。また、実際にはケースバイケースです。)。

             【退職勧奨を行う際の留意事項】

  1. 長時間多数回にわたり、執拗な退職勧奨を行うことは避ける
  2. 退職勧奨を行う側が大人数だったり、怒鳴るなど威迫的な態様での退職勧奨を行うことは避ける
  3. 一方で、言った言わないの問題が発生したり、一対一であると従業員の対応によっては興奮して不適切な発言をしてしまう可能性が否定できないので、2名~3名で行う。また、人選にも注意。
  4. 会社内・就業時間中に行う(自宅を訪問するなどは論外)
  5. 退職して欲しいあまり、事実を過度に強調したり、虚偽を言うことは絶対にしてはいけない。
  6. とりわけ、解雇するつもりなかったり、解雇事由がないのに、「この退職勧奨を受け入れないのであれば解雇する」と述べてはいけない(降格や配置換えも同じ)
  7. 退職勧奨と解雇通告は勘違いされやすいことが実務上多いため、むしろ、解雇を考える事案でないのなら、「退職を勧めてはいるが、これは解雇ではない。退職をするか否かはあくまであなたの自由である」ということをはっきり説明してしまう
  8. 退職勧奨をし、退職を勧める理由を一通りきちんと説明した上で、従業員が「退職するつもりはない」旨の意思をはっきり表示した場合には、深追いはしない
  9. 退職勧奨の過程はきちんと証拠化しておくこと(少なくともその過程のメモなどはとっておくこと)
  10. 従業員側が仮に録音していたとしても恥ずかしくない内容の発言を常に心がけること(パワハラにならないような発言を行うこと)
実務上のポイント

 

 以上のとおり、

  1. 退職勧奨は使用者の自由です
  2. 解雇のリスクを考えるのであれば、合意退職の前ステップとしての退職勧奨は有効に活用されるべきです
  3. 一方で、これが争われないために、その手段・方法には十分注意を払い、その適法性を争われないように証拠化しておきましょう。

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